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キャラ先とスジ先 2 [シナリオ作法]

さて、前回に引き続き、キャラ先・スジ先について です。

  ちなみに「キャラ先・スジ先」は
  私が勝手に言ってる用語ですので
  よそで使っても通用しませんので、お気をつけください 。

さてさて
脚本作りで悩ましい問題として
キャラ先・スジ先 どっちにするか
という問題がある――と前回お話しました。

特に脚本を書き始めたばかりで
何本か書いてみたあとに
はて、自分はどっちが合ってるのか
はたまた、どっちのアプローチが正解か
そんな風に悩む人は多いと思います。

先にキャラクター造形をしっかりやってから
キャラの動きを追うようにストーリーを編んでいくのか
それとも
先にプロットをしっかり組んでから
それに見合ったキャラを作り出してストーリーを構築するのか

物語の元となるアイデアが浮かんだ後
それをシナリオとして組み上げようとした時に
キャラ先にするのか?スジ先にするのか?
悩ましいところですね。
どっちがいいんでしょうか……?

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まずはそれぞれの長所短所からみてみましょう。

キャラ先の場合ですが
人物設定をしっかりがっつりするので
セリフが自然と出てきやすい、という強みがあります。
こんな場面・こんな状況の時には
このキャラはこういう言動をするはず!
と、自信を持って書き進めることができます。
もしも迷ったとしても、キャラ設定を振り返って
キャラに入り込みさえすれば
どのくらい時間がかかるか、は別として
どう動き、どう喋るか、自ずと答えが出てくるでしょう。

キャラ先を極めますとストーリー展開を考える際に
例えば「空から女の子が降ってきた」
というオープニングの とっかかりさえ思いつけば
あとは登場人物たちが動いてくれるので
それを書き留めていけばいいわけです。

そこまで極めずとも
セリフも自然と活き活きしますし
突飛な行動をさせたとしても
キャラ設定に基づいた行動ですので
監督やプロデューサーに突っ込まれた場合に
あたふたせず、堂々と説明できます。
なによりもストーリー全体を通して
キャラクターの心情の流れを把握しながら書けるので
ブツ切りの事件の羅列にならずストーリーを語れる
という利点があります。
しかも
キャラクターがしっかりしていればいるほど
自分が思いもしなかった方向にストーリーが進んだりしますので
作者自身も、書いていて楽しいアプローチだといえます。

但し
がっつりしっかりキャラ設定をしないと
執筆途中で場当たり的な設定追加をして
いろんな部分が連鎖的に破綻してしまったり
ストーリー展開に行き詰まった際に
突破する力が決定的に足りなくなってしまいます。
そうなると、最悪、キャラ変更を余儀なくされます。

逆にキャラ作りがしっかりしていたら、していたで
登場人物への思い入れが深くなりすぎてしまい
辛い状況に叩き込むことができなくなり
平穏無事で無難な展開にしかならなかったり
キャラ同士のかけあいだけで楽しく書けてしまうので
自分だけの箱庭世界でグルグルすることとなり
ストーリー自体が全然進まなくなってしまいがち。
更にはキャラを作りこみ過ぎて、それに囚われてしまって
ストーリー展開できなくなる、ということもあります。
――このキャラはこんな行動はしない!
だから、次の展開どうすればいいのかわからん!
だから、ストーリーが進まない!
という事になる場合も、あります。

人間を描く、というドラマの基本からしたら
キャラ先が王道のように思えますが
それゆえに頓挫したときには、なかなか抜け出せない
という落とし穴があったりします。
otoshiana.png

エンタメ系やミステリ系以外の
いわゆる純文学系の小説家の方々は
キャラ先の人が多いような印象があります。
昔の映画の脚本家の方々もキャラ先が多いかも。
あくまで個人の感想ですが。

さて、次に
スジ先の場合ですが
先にストーリー構成をしっかり練りあげるので
この先の展開をどうしよう……と
執筆途中でいたずらに悩まなくて済みます。
もちろん、プロット作りの過程では
たくさん悩んで、しっかり作り込まなくてはいけませんが
そこを手を抜いたり妥協したりしなければ
執筆途中で次の展開が思いつかず途方に暮れてしまい
最悪、完成をまたずに放り出す、という心配が少なくなります。

更には効果的な伏線も貼り放題です。
書きながら次の展開を考えるというキャラ先アプローチですと
このシーンは伏線あった方がいいなと思ったら
めんどくさくても、一回、前の方に戻って
伏線シーンを埋め込む作業をしなくてはいけません。
その際、埋め込む前後のシーンのテンポや
整合性も考え直さないといけないので、大変です。
スジ先ですとその手間暇を最小限に抑えられます。

それにキャラ先の場合だったら
あらかじめ思いついた伏線を張っておいても
キャラが自由に動いた結果、伏線回収ができなくなる……
なんてことも発生しますけれど
その点、スジ先ですと、その危険性も少なくなります。

なにより
面白い設定やオープニングシーンを思いついて
脚本を書き始めたはいいが
その後の展開に行き詰まり
着地点も見出せずに、未完のままになってしまう
というリスクが減ります。

map_open.png
スジ先は、地図を持って旅に出るのと一緒です。
地図上にゴールを設定したら
途中で交差点や分かれ道になっても
どっちに行けばいいかわかりますし
もし迷っても、地図を見ればいい。
歩いていてつまらない道や渋滞してる道があった場合にも
別の道を探るためには、地図があった方が効率的。
――そういうところがスジ先のメリットです。
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その一方で デメリットは
プロットに注力してしまうがゆえに
キャラが薄くなったり
ストーリーを語らせるだけのキャラになったり
と、キャラの魅力が乏しくなりがちだ、という点です。
物語の展開の面白さに頼って
キャラの掘り下げがおろそかになると
ありふれたセリフのやりとりになってしまいますし
物語全体の面白さに深みが出てきません。

それだけならまだいいんですが
ストーリーを進めていくうちにキャラクターの設定が
どんどんブレてしまう可能性も出てきます。
あるシーンではあんな言動をしていたキャラが
別のシーンではそれとは全く反対の言動をする……
なんてことが出てきてしまいます。
ストーリーの都合上でしかキャラが存在しなくなってしまうわけです。
それでは観客・視聴者も興ざめしてしまいます。

てな感じで
どちらも一長一短。

趣味として書くなら
キャラ先が向いていると私は思います。
先の展開が分からぬ物語を、登場人物と共に作っていく
という創作する楽しみが味わえますし
たとえ展開に行き詰まっても
締め切りがありませんので
思う存分、悩んで、考えて
創作する苦労、というものも堪能できます。

じゃあ、プロとして書くなら
スジ先でなくてはいけないのか
というと、それもちょっと違います。
ただ、キャラ先だけでなくスジ先でも書けないと
プロとしてやっていくのは大変かもしれません。
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なぜなら、まず監督やプロデューサーに提出するのは
プロットが多いからです。
企画書として提出する場合もプロットを求められるし
プロットがちゃんとしてなければ、尺が読めません。
キャラクターが自由に動いてるうちに
2h 枠のドラマなのに160分の脚本になってしまっては、困ります。
タランティーノならそのままでも周りは納得せざるを得ないでしょうが
みんながみんなタランティーノじゃありません。

国民的なミステリ作家も
かつてはプロットライターをしていたと聞きます。
連ドラ一話分のエピソード募集コンペをする、なんて時には
提出するのはもちろんプロットですし
企画書にもプロットを添付します。
その企画書が通って、脚本を書く段階になっても
いきなり脚本を執筆するのではなく
打ち合わせを反映させたプロットを書かねばなりません。
プロットの段階でも何度も打ち合わせを重ね、OKが出たら
ようやく脚本執筆にとりかかります。
まずはプロットの段階で納得させねばならんことが多いんですね。

なので、スジ先でプロット作りができないと
たとえコンクールで受賞してデビューできても
その後で苦労する可能性があります。

だからといってスジ先が大正義だ!とはなりません。
ここが難しいところで
出来の良いプロットが作れても
いざ脚本にしてみた時に
キャラクターの掘り下げができていないと
人物の心情の流れがブツ切りで繋がらない!
イベントをこなすために人物が動いてる!
などとダメ出しを喰らうことになります。
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ということで
やっぱり、キャラ先もスジ先も、一長一短。
あちらを立てれば、こちらが立たず……
じゃあ、どうするの?!

……気づけば、また長くなってしまいました。
申し訳ありませんが、次回に続きます。
来週には更新する予定ですので、少々お待ちください。
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